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バッタを倒しにアフリカへ 研究者という生き方

秋田出身のバッタ博士

秋田で働く一研究者としてこの本を紹介したい。
著者が秋田中央高校出身であったり、土崎の図書館借りたファーブル昆虫記が
きっかけで昆虫学者を志したなど秋田を知る人には分かる話が出てきたりする。

全国書店の猛プッシュもあり以前から気になっていた一冊
表紙を飾る怪しげなバッタのコスプレをした男こそ、かのバッタ博士!
本をめくって早5行目には衝撃の事実、
バッタ博士はバッタとふれあいすぎたがためにバッタアレルギーであった。

日本では幼い子どもたちに蹂躙される対象でしかないバッタだが
国が変わればバッタは、群れをなし通ったあとの作物を食い尽くす
一つの黒い嵐となる。
その被害は凄まじく、「蝗害」別の名を「神の罰」とすら呼ばれている。
手塚治虫の「ブッダ」にもその凄まじさが描かれている。

そんなに凄まじい災害であれば、もう散々研究されて尽くしているだろう、
と思えるが実際にはいつ発生するかわからないバッタの群れに怯え、
現れたら殺虫剤を持ってバッタの群れに駆けつけるという手段しかないという。

その神の罰に一人の日本人研究者が挑んでいく一冊!
結論から言うとバッタは倒していない。
ではこの本はどんな本なのかを紹介していきたい。

 
モーリタニア・バッタ・研究記

この本は、「バッタ」「モーリタニア文化」「研究者という生き方」
の3本柱で進められる。

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図1 バッタを倒しにアフリカへ
サバクトビバッタを訪ねて三千里

バッタの研究がひたすら綴られているかと思いきや
本書ではそんなにバッタは出てこない。
著者が意気揚々とモーリタニアを訪れた際、
大干ばつの影響でバッタがいないという事態に巻き込まれたためだ。

研究者から研究対象を奪うとは何たる仕打ち、
生き物・自然を相手にする研究者の厳しさを垣間見た。

研究対象がいなくても時間は残酷に過ぎていく。
呆然と打ちひしがれていくわけに行かないのが研究者だ!

機転を利かせ、サバクトビバッタから砂漠で出会った
ゴミムシダマシに研究をシフトする。
しかしその直後、今度は飼育していたゴミムシダマシが忽然と姿を消す…
なんとハリネズミに食べられていた!
次々と困難に直面しながらも機敏に順応していく様子は
読んでいて流石だと言わざるを得ない。

フィールドワークという研究手法がいかにして行われているのか
バッタの研究はどうアプローチするのかそういった部分もとても新鮮であった。

 
サハラ砂漠の西端モーリタニア

本書を語る上で欠かせないのが、舞台であるモーリタニアという国だ。
正直に言うと本書を読むまでモーリタニア…?多分…どっかの国?といったレベル。
詳しい位置は検索していただくとして、
アフリカ大陸西側の出っ張りのあたりにある。

研究はグループでやるイメージもあるかもしれないが、
研究者は著者一人、そして相棒兼ドライバーのティジャニと少数のメンバー
と共に砂漠を走り回る様子がよくかかれている。

砂漠には暑さやサソリなどよくイメージするものだけでなく様々な危険が潜んでいる
(ちなみに著者はサソリに刺される)。
例えば、サッファと呼ばれ一見ただの平地に見えるが塩と水が含まれ、
ハマったら出られなく底なし沼のような地帯や
地雷が埋まっている地域などがあるそうだ。

砂漠ということもあり特に食文化については興味深い描写が多々見受けられる。
オアシスで飲むたっぷりの砂糖とミントを入れた中国茶
これを3回に分けて飲むのがモーリタニア流だそうだ。

また、砂漠には冷蔵庫がないため肉の保存ができない。
しかし、生きたヤギであればいつでも新鮮な肉が食べられる。
最高のごちそうとしておもてなしに出されたり、
はたまた著者はバッタ偵察部隊へのお近づきの印に「裏ヤギ」と称して
市場で買い付けたヤギを贈ったりとしている。
家畜に対する認識が日本人とは違うのだろうということを感じさせられて面白い。

旅のエッセイを読んだかのような気持ちにもなれるのがこの本だ。

 

研究者という生き方

研究者はどうやって収入を得ているのかはなかなか馴染みが薄いかと思う。
企業や大学で働いている人についてはイメージしやすいかもしれない。

その一方で、博士を取得した研究者の中には就職が決まるまで
ポスドクと呼ばれ1,2年ほどの任期付きの研究職を転々としながら
食いつなぐ人達もいる。

著者はというと、若手研究者を外国に派遣する制度である
日本学術振興会海外特別研究員に採択され、
年間380万円を2年間支援してもらいモーリタニアで研究を行っていた。
(倍率20倍。更に著者はその前の博士取得後の3年間も学振特別研究員であった)

そして本書の7章にて、2年の任期が終わる運命の日を迎える。
バッタの研究ができなくなるかもしれない。
無収入という辛い現実が刻々と迫りくる。

ここからは、自分の夢を自分で切り開いていくといった
とても勇気をもらえる展開だ。
テレビやニコニコ学会といったものへの出演や
本や雑誌の一節を書くことになった経緯なども記されている。

最後に本書の一節を引用する。

夢を追うのは代償が伴うので心臓に悪いけど、叶ったときの喜びは病みつきになってしまう(中略)夢の数だけ喜びは増えるから、代償構わず夢探しの毎日だ。
夢を語るのは恥ずかしいけど、夢を周りに打ち明けると、思わぬ形で助けてもらえたりして流れがいい方向に向かっていく気がする。夢を叶える最大の秘訣は、夢を語ることだったのかなと、今気づく。

p.371,372より引用

日々の生活、それは仕事だったり私生活だったりといろいろあるが、
その中で夢を見つけ、叶えるために全力で努力を惜しまない姿勢の大切さ
を感じ取った。

 

ずいぶんと雑多な内容になってしまいましたが、
この本の方はとても読みやすく面白いのでおすすめです。

次回は9/29(日)更新予定