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君を愛したひとりの僕へ/僕が愛したすべての君へ

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図1 君を愛したひとりの僕へ/僕が愛したすべての君へ
並行世界 (パラレルワールド) を舞台にした恋愛作品

この作品は読む順番が読者に委ねられた並行世界が題材の作品で、同じ主人公が別の選択をしたという世界を描写した2冊で一つの本です。

この本の面白いところはまず、並行世界を題材にした作品特有の物語展開だと思います。これはどちらかというと「君を愛したひとりの僕へ」(以下君愛)に色濃く出ています。
別の可能性を選択した世界が実在していて、その可能性を選択しなおせる余地がある。過去の選択を選び直して、より望む世界を生きたいという願望を映し出しているような身につまれるような面白さを感じます。

例えば、映画「バタフライエフェクト」や「Steins;Gate」などが好きな人には強くおすすめできる作品です。
この作品でできるのは時間移動ではなく並行世界の移動のみという点において、例に上げた2作と設定が違っているので、並行世界移動ができるのであれば…といった想像をしてみるのも楽しいかもしれません。

この物語の世界の設定を書くと、数多くの並行世界が存在し人間は日常的に無自覚にその並行世界を移動しているということが一般的に認知されているようになった世界です。
並行世界の移動については、意識のみが並行世界の自分と入れ替わる形で行われていて、このとき時間は移動しません。
近くの並行世界ほど元の並行世界との際は小さく、また無自覚に移動してしまう頻度も高いため、「あそこにしまったはずのものがない」といった現象は無自覚の並行世界の移動が起きたためだと解釈されています。

並行世界を舞台にした作品にはつきものなのが主人公の恋する女性です。
この作品ではそれぞれの本で主人公が別々の女性に恋をしているという点で今までにない展開だと驚きました。

君愛の世界では、主人公が恋した女性とはどの並行世界でも幸せになれず、無意味と感じる人生を主人公は送ります。
その一方僕愛の世界では、主人公の愛する人と一緒になり幸せな人生を送る物語です。

それぞれ単独の物語として読んでも面白さはあるのですが、この作品は2冊読むことで互いの物語を補完し合いながら完成された物語になります。 

 

異なる並行世界が同時に進む物語形式

この作品の最大とも言える特徴は、お互いがもう一冊の話の続きと捉えることのできる話の構成でしょう。
話の順番を明確に位置づけずに、同時刊行という形で出版できる本だからこそできる発信手法だと思います。

幸せな物語が好きな人は、君愛→僕愛の順
切ない物語が好きな人は、僕愛→君愛の順が推奨されています。

私は、君愛→僕愛の順で読みましたが、たしかに読了後は救われるような気持ちになる幸せな物語に感じました。
逆の順番で読むとこういう話になるのかなと想像することはできますが、実際に経験できるのは片方です。
もしかしたら選ばなかった順番で読んだ自分が並行世界にいて、その自分はどう感じたのだろうと考えさせられます。
なんというか並行世界が実在する感覚のようなものを感じました。


さらに、2冊の本で同じ題材について語られるこの手法は、今後も色んな本に広がってもいいのではないかと言えるほどよくできた作品でした。

お互いの物語にそれぞれ伏線が張られていて、両方読むことで謎が解けるという部分がまず1つです。

また、本をわけることで同じ並行世界という題材を扱いながらも別々のテーマを一貫して扱えて、話にまとまりが出るというメリットも感じました。
君僕では科学や技術面に焦点を当てたSFらしい作品に仕上がってるのに対し、
僕愛では並行世界の存在が実証された世界に生きる人間の内面に焦点を当てた作品になっています。
同じ題材に対して別の切り口でアプローチすることでこんなにも話は広がるのかと見事に感じました。
(ネックは2冊分の値段がかかることでしょうか)

別の人生を歩んだ自分は自分なのか?

2つで一つの作品なのでどちらが好きかという評価は正しくないのでしょうが、私は僕愛の世界が好きです。

僕愛の世界で主人公は、「並行世界の自分は自分なのか」という疑問に直面する。
すなわち、別の可能性を選んでいた自分と今の自分は同一人物かという疑問です。

これはこの小説の中だからというだけでなく、あのとき違う選択をしていた自分がいたとしたらその自分は自分なのだろうかと考えることができるでしょう。

別の可能性について主人公は「いいも悪いもない。僕たちはもうそこに立っているんだから。あらゆる可能性の上に立って、そこで生きていくしかないんだ」と発言しています。
人生は選択の積み重ねだからこそ、自分の選択にもう一度目を向けて見るきっかけにもなるかと思います。