秋田de本

あなたと推し本

秋田でおすすめの本を紹介し合う読書会を開催しています!開催報告などを書いていきます。

新世界より 貴志祐介

f:id:watabeyo:20191013220243j:plain

図1新世界より概要
無意識の思考

本を習慣として本格的に読み始めるようになってからまだ日が浅いのですが、
一番好きな作家は?と聞かれたら「貴志祐介」だと答えています。

彼の作品は、自分では制御し切ることのできない無意識の思考を際立たせるような話の設定がとても見事だと感じています。
例えば、「悪の教典」では倫理観、
「天使の囀り」では快楽と恐怖、
「青の炎」では怒り、
そして、今回紹介する「新世界より」では想像力について考えさせられました。

この小説は、考えたことを現実にする念動力を持った人間が暮らす1000年後の未来を舞台にした作品です。
超能力や魔法といった超常的な能力を取り扱う作品の多くは、そういった能力が存在するどこか別の世界パラレルワールドのように扱われているように感じます。
その一方でこの作品の見事なところは、この世界に念動力が存在したらどうなるかという、あくまでこの現実の延長線にこの小説の世界があると思わせるリアリティだと感じています。

例えば今みんなが念動力を突然使えるようになったらどうでしょうか?
イメージするだけで物を動かしたり、空を飛んだり、などなど
暮らしは便利でより楽しいものになるかもしれません。
では良い面だけか?悪い面はないのか?そういったことにも目を向け緻密に設定が練られているのが本作です。

 

徐々に解き明かされていく謎

この小説は、主人公の渡辺早希の手記という形で始まります。
そのため主人公にとっては当たり前のものであったり、意図的に伏せられたりと様々な謎を秘めたまま物語が展開していくので、はじめのうちは読みづらさや混乱を感じるかもしれません。

冒頭で語られる業魔や悪鬼といった言い伝えの真意は何なのか?
バケネズミやミノシロなど生態系が今とかけ離れているのはなぜか?
どうして人々は注連縄で囲われた集落で暮らしているのか?
1000年後の未来なのに科学技術が姿を消しているのはなぜか?
といったように明らかにおかしいと感じさせている部分があり、それらが後々の展開に大きく関わってきます。

物語の世界の謎が徐々に解き明かされながら進むこの小説は、ある意味推理小説のようにも楽しむことができます。
似たような話の展開として、アニメの「ケムリクサ」やカズオ・イシグロの「わたしを離さないで」が近いように感じています。
いずれにしても、はじめのうちは物語を雰囲気を楽しみ、謎が解き明かされてからは違った見え方がしてくるといった面白さがあるので上記の作品などが好きな人にはとてもおすすめです。

また、超能力を持った子どもたちとその学校という舞台もあり「和製ハリーポッター」 などと評されることもあるようです。
ファンタジーでもあり、伝奇のようでもあり冒険モノでもありと、
いろいろな要素が含まれていながらもゴチャマゼ感があるわけではなくうまく一つの作品にまとまっている作品です。

想像力と向き合う

ネタバレをしてしまうと面白さが減ってしまうと思ったので多くを伏せましたが、
物語の内容を想像しながら興味を持っていただけたら幸いです。

頭でも述べたようにこの小説のテーマは想像力です。
この小説では呪力として描かれていますが、私はこれを科学技術に置き換えて考えていました。

人々の暮らしが飛躍的に便利になる技術が発明されたが、一方でそれは一歩間違えば人類を破滅させるようなものでもある。
そういったものをどうすればうまく扱っていくことができるのだろうか。
ありがちかもしれませんがそういう考えを浮かべながら読み進めていました。

小説の中では呪力とうまく付き合うために例えば教育、心理学や動物行動学などといった策がとられています。
しかしながらそれらだけでは足りないということも物語の顛末から伺えます。

何事も物事の一つの面だけを信じて突き進めるよりも
想像力を働かせ、特にリスクについては考慮して行動することが大切だと感じます。